母が亡くなり、89歳の父が残された。
息子の私から見た父は、とても真面目で、几帳面。
また、冷淡で、マイペース。
母とは、連れ添って65年。
特に定年退職後の30年間は、自宅で母と過ごすことが大半だった。
しかし、父は母に無関心だった。
母が話しかけてもこたえない、だから、会話がはずまない。
母に、優しい言葉をかけることも、感謝の気持ちを伝えることもない。
母からは、よく父に関する愚痴を聞かされたものだった。
その父に、認知症が出始めている。
母の他界が大きな契機になったことは、間違いないようだ。
今は終日、部屋の電灯もつけず、テレビも観ず、ソファにじっと座っている。
外出をすることは、まずない。
テレビでも観たらと言っても、首を横に振る。
うまいもんでも食べに行くかと声をかけても、行きたくない、食べたくない、と言う。
昨日は、大きな溜め息とともに、
「長く生き過ぎた、何もしたくない、もう生きてるのが嫌や」
と、絞り出すように、口にした。
何とも言えない、苦しく、辛く、悲しい気持ちになった。
夫婦仲が格別良かったわけではない。
しかし、父の心の痛手は私たちの想像を絶するほど深く、大きいのだろう。
老いて孤独になった父の生活を少しでも明るくするために、私に何ができるだろう。
これから老いていく一方の私は、どう生きるべきだろう。
また、確実に超高齢化社会へと向かうこの社会において、私は何をすべきだろう。
とても大きな課題をいただいていると感じている。