「こんなとこ、嫌や」
「帰りたい」
「連れて帰ってくれ」
施設にいる90歳の父が、たまに、そう言う。
時に、激しい口調で。
どこへ帰るつもりなのか。
どこへ帰りたいのか。
昨年、母が亡くなったこと。
もはや、それさえ忘れている父。
当初は、理解させようとした。
わからせようとした。
しかし、それは無理とわかった。
現実を知ることがいいとは限らないと思った。
施設を探し、入居の段取りをしたのは私だ。
これでいいのか、何度も自問した。
人にも相談した。
その上で、最善の選択をしたつもりだ。
でも、今も、施設にいる父を訪ねると、心が痛む。
この半年で、認知症状がさらに進んだ。
これまでの施設では、対応が難しくなった。
父の尊厳を守りつつ、安全に、穏やかに過ごすには…
昨年末から、ずっと考えていた。
今日、父は新しい施設へ移る。
〜 * 〜 * 〜 * 〜 * 〜 * 〜
介護サービスや施設は、待機者が多いと聞いていた。
希望しても、すぐに受けれない、入居できない。
下手をすれば、半年待ち、一年待ち。
複数の人からそのように聞いていたし、地域の支援施設からもそのように言われていた。
しかし、私たちは、非常に幸運だった。
待つことなく、サービスを受けたり、入居ができた。
今回も、そうだった。
また、父は、この半年で2回、行方不明になった。
いずれも、怪我もなく、無事に保護された。
亡き母が見守ってくれている、助けてくれている。
そうとしか、思えない。