私の恩師である、故 村松幸彦先生が、晩年、頻繁に口にしていた教えがあります。それが冒頭の「しばらない、おしつけない」です。先生は、自分の人生や信念が大きく揺らぐような衝撃的な体験を経て、この教えを徹底するようになりました。
組織化や権利化の弊害
整体を教えていると、少しずつではあっても、対象人数が増えて参ります。伝えている整体技術が優れたものであればあるほど、「正しく伝えたい」という気持ちが湧きます。しかし、その反面、秘匿化し、利権化しようとする自己中心的な考えも生まれて参ります。
それゆえ、整体の世界でも「ライセンス化」をしたり、「師範制度」を設け、組織化するところが多くあります。具体的に申し上げると、一定期間の習得講座を修了した後に、継続的サポートや、ライセンスの付与と維持を名目に、月額会費や上納金を徴収するという課金システムを構築するということです。
私が体験したこと
ちなみに私が通った整体学校は、学費300万円が必要でしたが、それに加えて修了後は月額38,000円の会費が必要でした。修了後、数ヶ月は頑張って支払いましたが、経営が伸びず、生活が苦しくなり、支払いができなくなりました。すると、冷酷にも関係を切られ、修了生名簿からも抹消されました。
「金の切れ目は縁の切れ目」とはよく言ったものです。お金の本質を理解し、上手に利用しないと、物事はうまく運びません。また、団体や組織を維持しようとすると、人数が増えるほどに不要な労力が必要となり、軋轢や摩擦が生じやすいのも事実だと思います。私は、いくつもの団体や組織が自滅していく姿を、目の当たりにして参りました。
私が心がけてきたこと
それゆえ、私も師匠の教えである「しばらない、おしつけない」を整体塾立ち上げ当初より守り、徹底しています。ゆえに組織化はせず、想いと志でゆるやかにつながることを大切にし、どうしても守って欲しいことは何度もお伝えしますが、最後は整体塾門下生たち個々人の個性や良心に委ねます。
門下生たちの中には、自分で整体を教え始める者も多く、教えていいかと許可を求めてきますが、私の答えは「どうぞおやりなさい、ただしご縁のあった方を必ず幸せにしてください」です。人に教えることには大きな責任が伴いますので、門下生自身が大きく成長できるからです。少しでも、この整体が広まればという想いもあります。
門下生の実践
吉瀬 なつ紀 (Natsuki Kise)は、2012年に私の整体塾の門を叩いた、ごく初期からの門下生です。講座を休む、精神的に不安定、言った通りにしないなどの“問題児”でしたが(笑)、どこか筋や芯の通ったところがあり、常に私たちに寄り添い、良き理解者として、整体塾を支え続けてくれました。
そして、良き伴侶を得てから、とても大きな成長を遂げたと感じています。私たちが関東道場を立ち上げる時には、大きな力になってくれ、整体塾唯一の「講師(現在は非常勤ですが)」として認定をしました。現在は、施術やセッションをするだけでなく、「お手当て講座」なるものを開講し、6期生を迎えるまでになりました(コメント欄参照)。
彼女は、コミュニティ作りが天才的に上手であり、この投稿のような素晴らしい仲間作りをしてくれています。特に「しばらない、おしつけない」を強く教えたわけではないのですが、ごく自然に実践をしてくれているようで、とても嬉しく、頼もしく思います。
整体修行を通じて学ぶこと
整体を通じて、最も学ぶべきことは「愛」です。愛とは、あえて人間の言葉で表現すると「尊重と信頼」です。合氣道開祖は「合氣とは愛なり」と喝破しましたが、愛を血肉化することが合氣道修行の肝要であるのと同様に、整体修行の肝要でもあると考えています。
私も、まだまだ途上であり、門下生たちが、こうやって独自の愛あるコミュニティを育てているのを見ると、いっそう頑張ろうという気持ちになります。師匠の教え「しばらない、おしつけない」は愛の実践方法の一つでもあったのだと、今さらながら思う次第です。ありがとうございます。