サラリーマンから自営業に転じて、大きく変わったことは、たくさんある。
そのひとつが、「縁」である。
心底「この人、素晴らしいな」と思える人と、たくさんご縁をいただけるようになったのである。
一緒に写っている松藤慎二郎さんも、その一人である。
昨年の夏頃、お客さまとして心身楽々堂へ来てくださったのが、出逢いのきっかけだ。
以来、ご自身の健康維持・増進のために、整体と整腸、両方の施術を受けに通ってくださっている。
それだけでもたいへんありがいのに、さらにありがたいお話をいただいた。
松藤さんは、「縁 創建工房」という注文建築に特化した工務店の社長さんなのであるが、社員やスタッフに対して、健康セミナーを開催してもらえないかとご依頼くださったのだ。
実は、企業向けに健康セミナーを開催するのは、独立開業以来の念願であった。
私はかつて、サラリーマンとして、ある企業に勤務をしていた。
その時に強く感じていたのは、周囲に心身の不調を抱える人が本当に多いということだ。
症状や程度の差はあれど、多くの人が不調を訴えていた。
一見元気そうに見える人であっても、慢性の肩こりや腰痛を始め、頭痛、胃痛、生理痛、不眠、慢性疲労など、何かしら痛みや不調を抱えている人がほとんどであった。
薬を常用している人も、少なくなかった。
中には、出勤できなくなり、長期休職をしている人も、チラホラいた。
癌で亡くなった上司や同僚もいた。
私自身、心を病み、10年ほどたいへん苦しい思いをした経験もある。
その企業を退職する際、総務部長が話をしてくれたのだが、近年、社員の健康管理がたいへん大きな課題になっているとのことであった。
労務管理上はもちろん、最も懸念されるのは仕事の質である。
心身の健康なくしてよい仕事はできない、そうおっしゃりたかったのだろう。
総務部長は、私が整体師に転身することを知り、ぜひ何か考えてくれとのことであった。
半分以上、激励の意味があっただろうが、けっこう本気だったと思う。
当時の仕事柄、私も、最高のビジネスソリューションは、従業員の健康増進だと考えていた。
特に心の問題解決は、急務だと感じていた。
社内でそんな仕事がしたいと模索したが、該当する部署やポジションは存在しなかった。
だったら、自分でやってみよう。
実は、整体師に転身し独立開業を目指したひとつの理由は、ここにもある。
しかし、駆け出し整体師にセミナーを依頼してくれる酔狂な企業など存在しない。
半ば忘れかけていたところへ、今回、お話をいただいた。
以前より、松藤さんから仕事や会社の話は、よくうかがっていた。
日本の伝統木造建築技術を駆使し、良質の自然素材を使い、施主と対話を重ね、共同で、家族が長く幸せに暮らしていける家づくりをする。
それと同時に、次世代へモノづくりの精神や技術を引き継いでいく。
松藤さんの高い志と熱い想い、そして誠意あふれる実践には、感服するばかりであった。
日本においては、住宅業界も、他の業界と同じく経済効率が最優先される。
利権の温床としか思えない法規制があり、便利さや快適さが過剰優先され、安さが決め手という市場環境において、志と想いを貫きながら業績を上げるのは、並大抵のことではないと拝察をする。
だから、創建工房のような会社の存在は、本当に稀有と感じる。
どのような家づくりをされているのか、詳しくは創建工房のホームページをご覧いただきたい。
もし家を建てるなら、絶対にこの人、この会社に任せたい。
松藤さんと一度でも話をしたら、きっと多くの人が、そう感じるだろう。
私は、そんな松藤さんを人として、経営者として、心から尊敬している。
だから、今年の8月にセミナーのお話をいただいた時は、涙が出るほど嬉しかった。
また、創建工房さんは、社名に「縁」を冠しておられる。
単に家を建てるだけでなく、縁を大切に、人を大切にする会社なのだ。
経営者である松藤さんが、本当に人を大切にする方だからであろう。
普段の会話から、松藤さんがいかに社員やスタッフ、お施主さんや業者さんを大切に思い、接しておられるかが、伝わってくる。
もちろん、口先や小手先ではない。
すべて行動で示し、会社の仕組みとして具現化されている点が、本当にすごいと感じる。
そんな松藤さんが率いる企業のみなさまに、私如きに何が伝えられるか、随分、頭を悩ませた。
単に知識や方法を伝えるセミナーは、相応しくないと感じた。
知識や方法は、書籍やネットを探せば、いくらでも見つかる世の中だからだ。
大切なのは、それらを峻別する智恵を持つことだと思う。
そのことが、さらに人を大切に、そして縁を大切にする企業としての発展につながれば、そんな考えを持つに至った。
今回は、智恵の基盤を築くために、
– いのちや身体の真実
– 自分に与えられたいのちのありがたさ
– 身体の面白さ、深遠さ
これらをお伝えし、自ら気付き、考え、行動するきっかけ作りを目的にしようと考えた。
原案を松藤さんにプレゼンし、インタビューをした上で内容を練った。
そして、一昨日の11月29日(日)の午後、ついにセミナーを開催させていただいた。
セミナータイトルを「整体的健康法のすすめ」とし、60ページのテキストを用意した。
6時間さいてくださるとのことだったので、約2/3を座学、1/3を実習にあてようと考えた。
会場は、創建工房さんが運営されている多目的スペース「根っこ」であった。
自然素材や古材をふんだんに使った、素晴らしい空間である。
前半の約4時間は、座学であった。
みなさん、とても熱心に聴いてくださったので、とても話がしやすかった。
後半約2時間は、実習にあてた。
実際に身体を動かしてもらい、感じていただくことに重点をおいた。
下の写真は、呼吸の実習である。
私たちが最もよく使う手技である「静圧法」も実習していただいた。
みなさん、非常に要領がよいので驚いた。
おそらくは、日頃から相手を思いやることを励行しておられるからであろう。
実際に創建工房さんを訪ね、社長を始め社員やスタッフのみなさんと一緒に学ばせていたただいて、たいへん僭越ながら、とても素晴らしい会社だと改めて感動した。
素晴らしさの源泉は、あえて申せば「誠実さ」と「あたたかさ」である。
これまでに、松藤社長がコツコツ積み重ねて来られたこと。
社員さんやスタッフさん、業者さんが、松藤さんのもとに集い、志と想いに共感し、一生懸命に取り組んで来られたこと。
それが、建物、事務所、間取り、装飾、雰囲気に現れ、すべてに統一感がある。
「事業は人なり」
松下電器創業者、松下幸之助さんが遺した言葉だそうだ。
みなさんよくご存じの通り、幸之助さんは経営の神様と呼ばれている。
優れた製品やサービスを提供するためには、まず人を育てねばならない。
経営者や社員の人間的成長度合いが、いずれ企業の業績を大きく左右することを、幸之助さんは肌で感じておられたのだろうと拝察をする。
とても日本的な経営概念のように感じる。
本当にその通りだと共感する。
しかし現代社会において、いったいどれだけの企業がこれを実践しているだろうか。
大半の企業は、自社の利益や経営効率が最優先事項であり、標語として「事業は人なり」と掲げることはしても、実際には実践していないのではないだろうか。
社員は、いくらでも代用のある「駒」として扱われる。
個人の志、想いなどは、売り上げや利益確保の前では、きれいごとにしか過ぎない。
企業が存続するためなら、良心も真心も踏みにじる。
幸之助さんが唱えたことなど、旧き良き時代の戯言くらいにしか思ってないかも知れない。
それが、現代日本の常識である。
だから原発は止まらないし、化学物質が私たちの生活と身体を蝕んでいく。
製品はすぐに壊れ、廃棄物が累々と堆積していく。
このような現代日本においても、数は少ないが「事業は人なり」を貫く企業が存在する。
この「縁 創建工房」さんは、間違いなくそのひとつであろう。
人と人が、縁を大切に、志や想いでつながっていく。
売り手と買い手という関係を超えて、価値観を共有できる仲間として集っていく。
何よりも、誠実さとあたたかさを大切にする。
その地道な積み重ねが、やがて社会を大きく変えていく力になると私は信じている。
そういう意味でも、たいへん意義深い一日であった。
松藤社長、社員やスタッフのみなさん。
今回はお招きをいただき、たいへんありがとうございました。
貴社のような素晴らしい企業で、初のセミナーを開催させていただいたこと、心より嬉しく、光栄に思っております。
今回お伝えしたことが、もしわずかでもお役に立てたなら、望外の喜びです。
私共でお手伝いできることがあれば、何なりとご用命ください。
何とぞ今後とも、よろしくお願い申し上げます。
▼縁 創建工房のウェブサイト
http://sokenkobo-en.co.jp/